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季節のコラムCOLUMN

二十四節気と七十二候

七十二候/蓮始開はすはじめてひらく

天上の花

蓮(はす)の花が咲き始めました。美しいふっくらとした蕾、透き通るような大きな花びら、青々と涼しげな丸い葉、葉に宿る美しい玉の露。この世のものとは思えない神秘的な美しさはまさに「天上の花」。

泥の中からすっくりと立ち上がり、神々しい花を咲かせる蓮。蓮は慈悲の象徴、極楽浄土に咲く花とされ、仏像の台座の多くは蓮華座(れんげざ)です。

露の身はここかしこにて消えぬとも こころは同じ花の台(うてな)ぞ

法然上人の歌です。「花の台(うてな)」は往生して極楽にいった人が座る蓮の花の台のこと。「一蓮托生」はどこで命を果てようとも、あの世で同じ蓮の花の上で暮らせることを意味する言葉でしたが、転じて、どこまでも行動を共にする悪行や心中ものにも使われるようになりました。

ともあれ「うてな」はなんとも美しい響きの言葉で、蓮の花をみていると本当にその中に小さな仏様がいるような気持ちになります。

夏の蓮見と蓮飯

ところで江戸時代、春といえば桜の花見、そして夏といえば蓮見(はすみ)が人気で、蓮の花で有名だった不忍池の周辺には60軒もの料理茶屋が並び、大賑わいだったそうです。すでに早朝からいい匂いが立ち込めていたという料理茶屋で出されていたのは蓮飯(はすめし)でした。水辺の美しい蓮を眺めながら、蓮飯に舌鼓を打つ。今でいうなら朝カフェですね。

蓮飯は、まだやわらかい先端の巻葉を細かく刻んでご飯にまぜたものを大きな蓮の葉に載せて出したり、もち米を蓮の葉に包んで蒸したもの、蓮を煎じた汁で炊いたもの、蓮の実を入れた塩味のご飯など、いろいろな調理法があったようです。いずれにしても蓮の香りをご飯に移していただくという風流な一品。

現在も夏の料亭では蓮の葉を使った美しい料理が供されています。これは送り火の頃に伺った京都・美濃吉のひと皿。大きく広がるふわりとした葉の緑が鮮やかなで、なによりの目のご馳走でした。

    写真提供:高月美樹

蓮の葉商い

江戸時代、蓮の葉は盂蘭盆会の供物としての需要がかなり高かったようで、「蓮の葉商い」と呼ばれる人たちがいたそうです。盂蘭盆会に使う蓮の葉や蓮の実をはじめ、五節供や年中行事に使われるさまざまな季節ものを売る人のことで、七夕の笹や竹、花、果物、木の実など、次々に売るものを変えることで生計を立てていたようです。

    写真提供:高月美樹

 

生意気で軽はずみな女性をいう「はすっぱ」という言葉も「蓮っ葉女」の略で、その場限りの蓮の葉商いのイメージや蓮の葉が風でゆらゆら揺れる様子、蓮の上の露が不安定に転がる様子からきたといわれています。

風に揺れる。荷風

中国では蓮のことを「荷」といい、日本でも蓮の葉のことを「荷葉(かよう)」といいます。「荷葉」は蓮の葉の漢方名としても使われていますが、平安時代は夏を代表する薫物(たきもの)の名でもあり、夏は蓮の香りを模したお香を身にまとうことになっていたようです。

実際に蓮の花にはほのかに甘い香りがあり、蓮池の周りを歩くとふんわりと甘い香りが漂っているのがわかります。水上の花なので近づくことはできませんが、その香りはなぜか遠くの方でよく香るのです。

そして「荷風(かふう)」といえば、蓮の葉の上を吹き渡る風のこと。睡蓮(すいれん)は花も葉も水に浮かぶだけですが、蓮は葉も花も水面から力強く立ち上がって風に揺れ、一茎に一つの花を咲かせます。

永井荷風が16歳で入院した際にお世話になった看護婦さんの名前が「お蓮さん」。片思いではありましたが、「荷風」という名はこの忘れがたき初恋の人を思い続け、「どんなに遠く離れていても、一生忘れません」という恋心からつけたペンネームだそうです。

蓮の花の見頃はまだしばらく続きます。蓮の花は昼には閉じてしまいますので、蓮見にいかれる場合は朝7時〜9時ごろがおすすめです。

出典:暦生活

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