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季節のコラムCOLUMN

いきもの暦

二十四節気と七十二候

雀始巣すずめはじめてすくう

七十二侯は「雀始巣(すずめはじめてすくう)を迎えました。

雀は市街地で日常的にみられる身近な鳥ですが、日本に生息する雀の数はここ20年間で 80% も減少したといわれています。その理由として、木造建築の減少により、巣作りが困難になったことがあげられています。

雀の巣には雨戸の戸袋、瓦屋根の下など、ちょっとした構造の隙き間が適しているのですが、こうした昔ながらの建造物が少なくなってきたことに加え、天敵から身を守れる樹木の減少、巣材となる草、種や虫などの餌の減少、農村部ではコンバインの普及による落穂の減少など、複合的な原因が考えられています。

友人が撮影したこの巣は、意外な場所にありました。春になり、種を蒔こうと使っていないプランターの蓋をとったら、なんと雀の巣が。もちろん、そっと蓋をして、巣立つのを楽しみに見守ったそうです。

こちらはガスの排気口の上の防護ネット。毎年、網のすき間をくぐり抜けて出入りしているそうです。

なにか特別なことをしなくても、こんなふうにプランターやバスケットなど身近なもので雀のお宿を作ってあげることはできそうですね。2階のベランダなど、人の背よりも高いところがいいようです。

雀の巣立ちは何度か経験したことがあります。一度目は、昔住んでいた家の屋根からの巣立ちです。ある日、天井からいつもかすかに聞こえていたヒナたちの声が突然、何事かと思うほど大きく、にぎやかになりました。

巣立ちの瞬間は、運動会のように騒がしいのです。親はなにやら一生懸命に声をかけ、子雀もそれぞれにわあわあと叫びながら、にぎやかに巣立っていくのがわかりました。

ドン、ズズズーッと一羽ずつ屋根をすべり台のようにすべっていく音がしたのです。すべっていく音がする度に、だんだんと声の数が少なくなり、最後にはシーンと静かになりました。私にとってこの経験はなんとも楽しく、愉快な思い出になっています。

寝屋のうへに雀の声ぞすだくなる 出でたちがたに子やなりぬらむ 好忠集

同じ経験をした平安の歌人の歌です。

その後も何度か、近所の家から聞こえるにぎやかしい声で、雀の巣に気づいたことがあります。そこを通る度にヒナが育ち、餌を求める声がだんだん大きくなっていたのが、ある日突然静かになって、あっけないような寂しさとともに、無事に巣立ったのだという安堵も感じます。雀の子育てはわずか2週間です。

面白いことに小鳥の巣立ちは日を分けずに、いっぺんに終わります。育ちの早い子も遅い子も、同じ日に出ていくのです。一度巣立てば、もう戻ることはありませんので、一緒に行動して餌の取り方を教えていくためにも、親鳥としては同じ日に巣立たせる必要があるのでしょう。

雀は1日にひとつずつしか卵を生めませんので、当然のことながら育ちには遅速がでます。兄弟と一緒に飛び立たなければいけない末っ子にとってはなかなか過酷です。

巣立った雀も、すぐに飛べるようになるわけではありません。屋根から巣立った子雀たちも羽を必死でばたつかせ、なかば落ちるようにしてなんとか地面に着地したはずです。飛ぶ力も弱く、敵に狙われやすい子雀たちは住宅街の植え込みや草むらの中によくいます。

子雀の声は鋭いチュンチュンにはならず、ジュンジュンと甘えるような濁った声ですぐわかりますので、あ、ここに隠れているんだな、とにっこりしてしまうことがあります。姿はみえませんが、声だけでわかるのもまた楽しいものです。
春いちばんの雀が巣立ったあと、初夏に生まれる二番子たちもいますので、ジュンジュンと親を呼ぶ子雀の声は夏くらいまできこえます。

動き始めた子雀たちはまだ警戒心や注意力が十分に育っていないので、案外、目立つところにポツンといたりして、危なっかしくみえることもあります。

我ときて遊べよ親のない雀 一茶

有名な句ですが、一茶はそんな光景をみたのではないかとおもっています。

親雀たちは巣立ってからも餌を与え、少しずつ餌の摂り方を覚えさせていくので、あと1ヶ月もしないうちに子雀たちが親と一緒に移動しながら、餌をおねだりする姿をみかけるようになります。

子雀は首が太くずんぐりむっくりしていますが、親雀は首が細く、全体にスマートで痩せているようにみえます。見分けポイントは首の細さと、頰や喉元の黒い部分、くちばしの黒がはっきりしているのが成鳥の雀です。

©Ymahiko Takano
見回して顧みもして親雀 虚子
いそがしや昼飯頃の親雀 子規

私は親子雀の様子をそっと見つからないように観察するのが趣味のひとつですが、つねに注意をはらって子雀を守り、教え、励ます親の姿には毎年のことながら胸を打たれます。春に巣立った子雀が秋まで生き延びる確率は50%くらい、冬を越して春を迎えられるのはさらに半分の25%くらいだそうです。

雀の減少は日本だけでなく、世界中で起きているようです。雀は森の中には棲息せず、人里を好む都会の鳥。そして巣には建造物の隙間などを利用します。たくさんいるように思えている雀も、大事にしてあげないといけない時代になったようです。

雀は稲を食べる害鳥とされてきましたが、都心においてはアブラムシや雑草の種もせっせと食べてくれる益鳥でもあります。かつて中国のある地域で雀を徹底的に撲滅する政策をとった結果、作物の害虫が大量に発生し、凶作となったことがあったそうです。雀は稲も食べますが、稲の害虫も食べていたのです。すべては連鎖の中にあって、均衡が保たれているのですね。

萌え出でし野辺の若草

今朝見れば

雀がくれに

はやなりにけり  新撰六帖和歌

最後に晩春の季語をひとつ。草の芽がのびて、雀が隠れるほどになることを「雀隠れ」といいます。雀がちょうど巣立ちを迎えるころ、大地の草はほどよい背丈になり、木々の葉も芽吹いてきて、小鳥たちが隠れやすくなっています。

「雀隠れ」の代表的な雑草です。白い穂のような地味な花をつけるこのなにげない草が私は子供のころから好きでしたが、スズメノカタビラ(雀の帷子)という名前を知ったのは大人になってからです。

文責・高月美樹

出典 暦生活

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