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季節のコラムCOLUMN

二十四節気と七十二候

蟷螂生かまきりしょうず

今日は七十二候の「蟷螂生」についてです。

子どもの頃はカマキリがちょうど生まれてくるところに出くわし、よく観察していました。カマキリの赤ちゃんのかわいいこと!

赤ちゃんの頃はアリに食べられてしまうほど弱いカマキリですが、畑や菜園においては益虫です。作物につくアブラムシやダニ、芋虫などの害虫をせっせと食べてくれるので、カマキリの卵鞘(らんしょう)を大事に保護している農家さんもいます。

ひとつの卵鞘から生まれるカマキリは200匹以上ですが、成虫になって生き延びるのはわずか2、3匹。最初は弱く小さなカマキリですが、体の成長とともに次第に大きな獲物を捕るようになります。最後には肉食昆虫の中でもほぼトップに近い存在となり、食べられる側から食べる側に回ります。

 

カマキリがいるということは、そこに捕食される小さな生きものたちがいるということでもあり、生態系の豊かさの象徴でもあります。

 

私の田んぼでは毎年、稲刈りのときに必ずと言っていいほどオオカマキリと遭遇しますし、稲束の中に卵鞘(らんしょう)をいくつも見つけます。カメラを向けるとこちらをキッとにらんで、しっかり卵鞘を守っているような姿に、思わず微笑んでしまいます。この立派に成長した親たちも冬越することなく命を終えます。短く、尊い命です。

人が近づくと振り向いたり、顔の向きがはっきりわかったりするのも面白いですよね。威嚇するように鎌をかまえはしますが、その鎌は自分が食べる獲物を捉えるためのもので、大きな人間に飛びかかってくることはありませんし、毒もありません。成長したカマキリを怖いと思う人もいるかもしれませんが、人間にはまったく無害な生きものです。

「なんとなく怖い」というイメージではなく、生きものの性質や役割をよく知ることで、まったく怖くなくなることがあります。恐れるべきは何なのかを見誤らないようにしたいですね。私にとっては、体長わずか数ミリのブヨの方がよほど気をつけなければいけない危険な生きものです。

こんなにかわいいピンクのカマキリもいます。蘭の花に完全に擬態した妖精のようなハナカマキリです。東南アジアの熱帯雨林に広く生息しているカマキリで、蘭の花に棲み、いつしか蘭の花そっくりになってしまったカマキリです。こんなカマキリなら怖くないのでは?

 

ところでカマキリは昔から「拝み虫」と呼ばれてきました。英語でも同じようにpraying mantis(祈り虫)というそうです。「拝み虫」でいつも思い出すのは、小さな虫や小動物をこよなく愛した小林一茶の句です。

やれ打つな蝿が手をすり足をする
蠅一つ打てはなむあみだ仏哉

打とうとしたハエをよくみると、まるで命乞いをするように一生懸命手をすり合わせているではないか。ハエもちょうど今頃の季語ですが、小さな命にも目を向け、大切にしようという気持ちになる素敵な句です。

私は虫が好きなのでいろんな虫をよく観察していますが、この動作はカマキリやハエに限りません。小さな昆虫たちを見ていると、器用に前足をつかって触覚を拭いたり、両手をすり合わせて汚れを取ったりするしぐさをよくしています。彼らにとっては生きるために必要な行為なのですが、懸命な姿がなんとも可愛いなあ、とつい眺めてしまいます。

6月4日は虫の日、6月5日は環境の日です。草木が旺盛となり、さまざまな虫たちに出会える季節でもあります。地球上が花であふれているのは虫たちと植物が長い時間をかけて築きあげてきた共存関係の結果です。その中で生かされている人間の立ち位置をほんの少し感じていただければ幸いです。今年はうちの田んぼで見かけた美しい虫をいくつかご紹介します。

                       レインボーカラーが美しいアカガネサルハムシ(赤銅猿金花虫)です。
金色の頭に透明な円盤のボディをもつジンガサハムシ(陣笠金花虫)。
写真提供:高月美樹

歩く宝石と呼ばれるアカスジキンカメムシ(赤条金亀虫)。

黄色のハートが愛らしいエサキモンキツノカメムシ(江崎紋黄角亀虫)。
花の蜜が好きなベニホタル(紅蛍)。
 多種多様な生きものが混生する田んぼの畦。植生の豊かさはそのまま生き物の豊かさにつながっています。

文責・高月美樹

出典・暦生活

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