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季節のコラムCOLUMN

二十四節気と七十二候

菊花開きくのはなひらく

七十二候では「菊花開(きくのはなひらく)」に入りました。菊というと、栽培品種を思い浮かべる人が多いかと思いますが、野生の菊の美しさはまた格別です。今回は、そんな野辺に咲く菊たちをご紹介します。

私がこよなく愛するのは嫁菜です。毎年、田んぼの畦に群生し、素晴らしい花野の世界を見せてくれます。

田んぼの畦

ヨメナ(嫁菜)は野菊の代表です。春の若い葉を摘んで食べられることで知られています。嫁菜の名は嫁のように可憐で美しいから、また鼠(ヨメは鼠の古語)が食べるからとも言われます。うすいピンクや紫などもあり、個体によってさまざま。

柚香菊 

ほかに柚香菊、野紺菊、白山菊などもあり、野菊の世界は多彩です。

野紺菊 写真提供:Shinji Sato/ 白山菊 写真提供:細川修一

ところで、江戸時代の絵を見ていると、「菊と蝶」の組み合わせをよく目にします。蝶は命を終えていく季節でもありますが、不老不死を象徴する菊と、復活する霊魂を象徴する蝶。命を延ばすように菊の露を舐めている、と詠んだのが芭蕉のこの有名な一句です。

秋を経て蝶も舐めるや菊の露 芭蕉

肌寒くなった頃、ひらひらと舞う蝶たち。よくみると、羽がぼろぼろになってることも多い秋の蝶。傷ついた羽は、たくましく生き抜いてきた証です。

キアゲハ/ツマグロヒョウモン
モンシロチョウ/アオスジアゲハ

「秋の蝶」「秋の蜂」「秋の蚊」、いずれも命の盛りを過ぎるがゆえに季語となります。生まれては消えてゆくものに永遠の美しさがあり、虫の音も弱りゆく頃が愛おしく感じます。

ところで、「菊の節供」とも呼ばれる重陽の節句は旧暦九月九日。今年は10月14 日で、あすになります。最大の陽数が重なる九月九日はかつて五節供の締めくくりとして盛大に行われていましたが、西暦の9月では菊が咲かないため、忘れられがちな節供となっています。

重陽の日には黄色い粟(あわ)を入れた粟飯や、栗ご飯を食べる風習があり、「粟節供」ともいいます。菊はいうまでもなく、日本の伝統的なエディブルフラワーで、毎年、八百屋さんにも並んでいます。酢の物やキノコとの相性もよく、ビタミンも豊富。不老不死とはいかないまでも、正真正銘のアンチエイジング食品です。

平安時代のような「着せ綿」や「菊酒」は風流すぎて、現代の生活にとりいれにくいかと思いますが、粟や食用の菊の花は手に入れやすいので、秋の食卓に一度はあげてみてください。私は数週間前に菊の花が並び始めたので、早速、買ってきて酢の物にしたり、お吸い物にしたりしました。

もうひとつ、重陽の節供を気軽にできる方法があります。登高(とうこう)です。登高は重陽の行事のもとになった中国の風習で、「高きに登る」は晩秋の季語になっています。古代中国では九月九日に茱萸袋(しゅゆぶくろ)を腕にかけたり、茱萸や菊の枝を髪に挿して、見晴らしのよい高台に登り、景色を眺めながら菊の酒を飲み、厄を払う風習がありました。

日本一美しいといわれる沼田の河岸段丘を一望する 

不老長寿の象徴とされる菊の花も、呉茱萸(ごしゅゆ)も、漢方に使われる薬の一種です。茱萸袋(しゅゆぶくろ)は赤い袋の中にスパイシーな香りを放つミカン科の山椒、呉茱萸を入れた匂い袋のようなものです。

茱臾袋(しゅゆぶくろ)

小高い場所から広々とした清々しい秋の景色を眺めて命が延びる思いがするのは、今も昔も変わりません。美しい景色を眺めるという行為も「重陽」です。

重陽は「命延ぶ」こと、気分がよく、清々しくなるようなことをひとつでもすれば、よいのではないかとおもいます。

今の季節の秋晴れの日を「菊日和」と言ったり、「菊晴れ」と言ったりもします。暑さも去り、なんとはなしに気持ちよく、身体がよく動いてくれます。私はこのところ、ずっと気になっていながらできずにいた掃除や家の修繕を日々、せっせとしています。菊が咲いていることを知りながら、ゆっくり見る時間がないくらい、元気に働けた。そんな日が最高の菊日和かもしれません。私の好きな一句です。

菊を見ずはたらくことの菊日和 翔

出典:暦生活

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